第7章 総合演習と障害切り分け【仕上げ】
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この章は研修参加者向けです
この章では、これまでに構築したネットワークにわざと障害を仕込み、下の層から順に切り分けて修復する総合演習を扱います。障害カタログ・切り分けの型・報告の型を実機で使います。
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仕上げ(任意) | 前提: 実施したモジュール | 所要時間の目安: 約60〜90分 | 進め方(モジュールの選び方)
この章の目的
Section titled “この章の目的”最終章です。ここまでの7章で、みなさんは支店LANを作れるようになりました。最後に身につけるのは、直せる力です。
この章では、講師がみなさんのネットワークにわざと障害を仕込みます。申告はいつも同じ、現場と同じ一言です — 「つながりません」。
どこが壊れているかは知らされません。使えるのは、この研修で手に入れた道具と、「下の層から順に」の型だけ。それで十分です。むしろ、それしか要らないことを、この演習で確かめてください。
役割について: この章は2人の共同作戦です。1人が操作、もう1人が記録(何を確認して、結果がどうだったかのメモ)を担当し、障害ごとに交代してください。記録係は「なんとなく直った」を防ぐ、チームの黒板です。
7-1 演習の進め方とルール
Section titled “7-1 演習の進め方とルール”進め方は、基礎編7-9(ペアで障害を仕込み合う演習)と同じ流れ です。今回は、仕込みの範囲がPCの設定だけでなく、実機のネットワーク全体(ルーター・スイッチ・配線)に広がります。
- チームは席を離れます(その間に講師が障害を仕込みます)
- 席に戻ったら、開始の合図で切り分け開始
- 原因を特定し、修復し、通信が戻ったことを再確認する
- 講師に報告の型で報告する —「〜までは正常。〜がNG。原因は〜。直して、〜で再確認しました」
- 時間に応じて、次の障害へ(仕込まれる障害は進行により1〜3個です)
守ってほしいルールが3つあります。
- 手当たり次第に触らない — 「とりあえず再起動」「とりあえず挿し直し」で直ると、原因が永遠に分かりません(基礎編第8章)。確認だけを、順番に
- 変更したことは全部記録する — 切り分け中に自分が変えた設定が、新しい障害になるのが実務の二次災害の定番です
- 直したら、必ず再確認 — 「直したはず」と「直った」は別ものです
※どの障害がどう仕込まれるかは、当日のお楽しみです。
7-2 道具箱の総点検
Section titled “7-2 道具箱の総点検”この研修で手に入れた道具を並べます。基礎編第8章の道具箱の、実機演習版です。
| 道具 | 何が分かるか | 使った章 |
|---|---|---|
| リンクランプ(目視) | 第1層(物理)がつながっているか | 第2章 |
ipconfig | 自分の住所の4点セット | 第2・3章 |
ping | 相手まで届くか(往復) | 全章 |
tracert | どこまで進めたか(道の記録) | 第4章 |
| LAN Monitor | ポートの状態・所属・接続機器 | 第3・6章 |
| RTXの管理画面 | LAN側/WAN側・DHCP・経路・VPNの設定と状態 | 第2・4・5章 |
| Wireshark(+ミラーリング) | 実際に流れている(いない)ものの確認 | 第8章 |
道具選びのコツは1つ — 「いま、どの層の話を確かめたいのか」を先に決めてから、道具を手に取ることです。
7-3 切り分けの型 — 下の層から、近い順に
Section titled “7-3 切り分けの型 — 下の層から、近い順に”確認の順序はこの研修中、ずっと同じでした。総まとめとして1枚のフローにします。
図7-1 切り分けフロー — どの段で止まったかが、そのまま原因の住所になる
大事なのは、成功した段は「シロ」と確定していくことです。「③まで成功」と分かれば、ケーブルもPCの設定もスイッチも、もう疑わなくてよい。疑う範囲がひとりでに狭くなっていきます。
7-4 障害カタログ — この研修の「壊れ方」全集
Section titled “7-4 障害カタログ — この研修の「壊れ方」全集”仕込まれる可能性のある障害は、すべてこの研修のどこかで一度出会ったものです。下の表は全モジュールを実施した場合の全集で、実際に仕込まれるのは、あなたのチームが実施したモジュールの範囲だけです(実施していないモジュールの行は読み飛ばして構いません)。
| 障害 | 典型的な症状 | 見つけ方 | 出会った章 |
|---|---|---|---|
| ケーブルの接続誤り・抜け | ランプ消灯/全滅 | 目視・LAN Monitorのリンク表示 | 第2章 |
| PCのIPアドレス誤り | その1台だけ通信不可 | ipconfig と設計値の突き合わせ | 第2・3章 |
| DHCPの配布範囲誤り | 自動取得のPCが変な住所/169.254 | ipconfig →RTXのDHCP設定 | 第2章 |
| デフォルトゲートウェイなし | 同じ街はOK・外に出られない | ipconfig の出口欄 | 第2章 |
| ポートが無効化されている | ケーブル正常なのにリンクが落ちる | LAN Monitorのポート状態 | 第3章 |
| VLANの所属ポート誤り | 特定のPCだけ孤立(ランプは点灯) | LAN Monitorの所属一覧 | 第6章 |
| インターネットに接続できない | 外に出られない(外部ping・nslookupが失敗) | WAN側リンク→WAN側IP取得→ウィザード設定 | 第4章 |
| VPNトンネルへの経路がない | トンネル確立なのにNASに届かない | VPN状態→トンネルへの経路設定 | 第5章 |
| VPNが片側しか設定されていない | 行きは着くはずなのに応答が返らない | 自側を全部確認→本社側へ報告 | 第5章 |
| VPNの接続先ネットワーク誤り | トンネル確立なのに通信不可 | VPN状態→接続先NWの設定 | 第5章 |
ただし本番では、「この表のどれか1つが、そのまま出る」とは限りません。2つ同時もあり得ます。カタログの暗記ではなく、7-3の型で上から順に確かめるのが結局いちばん速い、と体験するのがこの演習です。
7-5 報告の型 — 直して終わりにしない
Section titled “7-5 報告の型 — 直して終わりにしない”修復したら、講師への報告で締めます。型はこうです。
①どこまで正常だったか(シロの範囲)②どこがNGだったか(現象)③原因は何だったか(特定した設定・場所)④どう直し、何で再確認したか例: 「ランプとipconfigは正常。PC-Bから出口へのpingだけ失敗。LAN Monitorで確認したらポート3の所属がVLAN20のままでした。所属を戻して、PC-BからPC-Aと出口へのpingが通ることを再確認しました」
この4行が言えるなら、あなたの切り分けは再現可能な仕事になっています。「なんか触ってたら直りました」との差は、半年後のトラブルでもう一度直せるかどうかの差です。
7-6 直せなかったときは
Section titled “7-6 直せなかったときは”制限時間内に直せなくても、演習としては失敗ではありません。報告の型の①②③の途中まで — 「ここまでは絞り込めた」— を講師に伝えてください。
実務でも、担当者が全部直せる必要はありません。正確に絞り込んで、次の人に引き継げることのほうが、ずっと価値があります(第5章で「自分では直せない本社側のVPN設定」を講師に報告したのと同じです)。そのうえで、講師と一緒に残りの切り分けを最後まで歩き、「どの段の確認が抜けていたか」を振り返りましょう。
7-7 撤収 — 来たときよりも美しく
Section titled “7-7 撤収 — 来たときよりも美しく”全障害の修復(または振り返り)が終わったら、片付けです。
- PC(PC-A・PC-B)のネットワーク設定が 自動(DHCP) になっていることを確認する — 固定IPのままだと会場のLANに戻れません(第2章のミス表で予告したやつです)
- ケーブル・機器の撤収は、講師の指示に従う
- 機器の初期化(次の研修に備えた工場出荷状態への戻し)は、講師側で行います
7-8 この研修のまとめ — あなたが作ったもの
Section titled “7-8 この研修のまとめ — あなたが作ったもの”最後に、この研修を振り返ります。あなたのチームは —
- 何もつながっていない機器から、支店LANをゼロから立ち上げ(第2・3章)
- スイッチを見える化・分割し(第3・4章)
- 本社への道を書き、暗号のトンネルで結び(第5・6章)
- 壊されても自力で直せることを証明しました(この章)
基礎編の言葉をひとつだけ持ち帰るなら、これです — 「なぜ通信できるのかが分かれば、なぜ通信できないのかも分かる」。
次の一歩としては、こんなものがあります。
- 自宅のルーターの管理画面を(設定は変えずに)眺めて、DHCP・経路・WAN側の住所を読んでみる
- 職場のネットワーク構成図を探して、今日の図と見比べてみる(なければ、描いてみるのは大きな貢献です)
- 基礎編第10章(読み物)を、まだの方はぜひ
おつかれさまでした。みなさんの支店は、今日も無事に開通しています。
基礎編の関連章
Section titled “基礎編の関連章”- 第8章 — 切り分けの型と報告の型の原点。この章はその実機総合版
- 第1章 — 「困ったら構成図」。この研修で一番使った教えかもしれません
最後の確認問題は、すべてシナリオ形式です。7-3のフローを片手にどうぞ。
問題1(切り分け)
Section titled “問題1(切り分け)”PC-Bの ipconfig が 169.254.x.x を示しています。疑うべき候補を2つ以上挙げ、確認する順序を説明してください。
問題2(切り分け)
Section titled “問題2(切り分け)”ping 192.168.n0.1 は成功しますが、ping 192.168.200.10 が失敗します。この時点で「シロ」と確定してよい範囲はどこまでですか。また、次に確認すべきものを2つ挙げてください。
問題3(切り分け)
Section titled “問題3(切り分け)”リンクランプは点灯、ipconfig も正常(両PCとも 192.168.n0.101〜150 の住所)。しかしPC-BからPC-Aへのpingだけが失敗します。どの道具で、何を確認しますか。
問題4(報告)
Section titled “問題4(報告)”問題3の原因が「ポート3の所属がVLAN20のままだった」だったとします。修復後、講師への報告を7-5の型(4行)で書いてください。
問題1の解答を表示する
解答例: 169.254は「DHCPからもらえていない」サイン。候補は ①第1層の問題(ケーブル・ポート無効・リンク)②RTXのDHCP設定の問題(無効化・配布範囲の誤り)③PC-Bが手動設定のまま等のPC側の問題。順序は、まずランプとLAN Monitorでリンクを確認(第1層)→PC-Bが「自動」か確認→RTXの管理画面でDHCP設定を確認→ ipconfig /renew で再取得。
「169.254=DHCP不在のサイン」(第2章)から出発し、下の層から確認できていれば正解です。
問題2の解答を表示する
解答例: シロの範囲は、第1層(配線)・PC自身の設定・スイッチ・自分のルーターまでの到達(=支店LANの中は全部正常)。次に確認するのは ①VPNトンネルが「確立」しているか+本社宛ての荷物がトンネルへ向く経路があるか ②tracert でどこまで進めているか。そこで止まる場所により、自側の設定か、相手側(本社側の設定)かを絞る。
「成功した段はシロ」(7-3)で範囲を確定してから先へ進めていれば合格です。
問題3の解答を表示する
解答例: LAN Monitorで、①ポート3(PC-B)とポート2(PC-A)の状態(有効か・リンクしているか)②VLANの所属一覧(ポート3と2が同じ所属か)を確認する。ランプ点灯+ipconfig正常で第1層と自分はシロなので、疑いは「同じ街の中の仕切り」— つまりスイッチの設定(ポート無効化かVLAN所属)に絞られる。
「ケーブルは正常なのに孤立」→スイッチの設定、という第3・4章の体験が結びついていれば満点です。
問題4の解答を表示する
解答例:
①ランプ・ipconfig・ポートの有効状態までは正常でした。 ②PC-BからPC-Aと出口へのpingだけが失敗していました。 ③原因はポート3の所属がVLAN20のままだったことです。 ④所属を元に戻し、PC-BからPC-Aと出口(.1)へのpingが通ることを再確認しました。
「直して、再確認しました」まで言い切れていれば、この研修の切り分けは卒業です。
- 基礎編 第8章 コマンドとWiresharkによる確認・障害切り分け — 型の原点。研修後に読み返すと、実機演習編の体験で解像度が上がっているはずです
- 第1章 使用機器と演習ネットワーク — 構成図と設計値の出発点。実務でも「まず構成図と設計書」です