第3章 SWX2110とYamaha LAN Monitor【共通】
共通(必須) | 前提: 第2章 | 所要時間の目安: 約40分 | 進め方(モジュールの選び方)
この章の目的
Section titled “この章の目的”第2章で支店LANは完成しました。この章の主役は、ここまで黙って働き続けてきたスイッチ(T{n}-SW)です。
第2章で顔合わせした Yamaha LAN Monitor を本格的に使い、スイッチの中で起きていることを「見える化」します。どのポートに誰がつながっているか、通信は流れているか — 今まで想像するしかなかったスイッチの仕事ぶりを、画面で確かめられるようになります。
この章では VLANはまだ設定しません(第6章で扱います)。まずは、スイッチ管理の基本操作に集中します。
3-1 今回の目的と構成
Section titled “3-1 今回の目的と構成”目的: スイッチの状態確認と基本操作を、LAN Monitorで身につける。
現在の構成: 第2章の完成状態のまま。配線も、ルーターの設定も、この章では一切変えません。PC-A・PC-BともDHCPで、192.168.n0.101〜150 の住所をもらっています。
変わるのは1つだけ — スイッチの中が見えるようになることです。
3-2 スイッチは沈黙の仕事人 — なぜ「見える化」が要るのか
Section titled “3-2 スイッチは沈黙の仕事人 — なぜ「見える化」が要るのか”ここまでの演習で、スイッチには一度も設定をしていません。それでも通信は全部通っていました。スイッチは何もしなくても正しく働く、現場の沈黙の仕事人です。
では、なぜ管理の道具が要るのでしょうか。トラブルの日を想像してください。
- 「PC-Bだけつながらない」— ケーブルはどのポートに挿さっていた? そのポートは生きている?
- 「このポートの先には何がつながっている?」— 机の下のケーブルをたどるのは大変です
- 「通信が重い」— どのポートに、どれくらい流れている?
ルーターには管理画面(中のWebサーバー)がありましたが、SWX2110-5Gの窓口は PCに入れたLAN Monitor でした(第2章)。この章は、その窓口から沈黙の仕事人に「仕事ぶりを見せて」と頼む練習です。
3-3 操作手順① — ネットワーク構成を表示する
Section titled “3-3 操作手順① — ネットワーク構成を表示する”PC-AでLAN Monitorを開きます(第2章 2-5でスイッチが見えることは確認済みです)。
まず、画面に表示されるネットワークの姿と、手元の構成図(図2-1)を見比べてください。
- スイッチ(SWX2110-5G)が表示されているか
- スイッチの先に、ルーターやPCなどの接続機器が見えているか
- 「画面のこの表示は、机の上のこの機器」と、指をさして対応づけられるか
紙の構成図と画面が一致していることを確かめる — 地味ですが、これが実務のネットワーク管理の第一歩です。一致していない場所は、配線ミスか、構成図の書き間違いのどちらかです。
3-4 操作手順② — ポートの状態を読む(実験つき)
Section titled “3-4 操作手順② — ポートの状態を読む(実験つき)”次に、ポート1〜5の状態を1つずつ読みます。見るのは3点です。
| 見る項目 | 意味 | 期待する状態 |
|---|---|---|
| リンク | そのポートが「つながっている」か | 1・2・3が接続中、4・5は空き |
| 速度 | どの速さでつながったか | 機器どうしの相談で自動決定 |
| 接続機器 | そのポートの先にいる相手 | 1=ルーター、2=PC-A、3=PC-B |
リンクランプ(第2章)を目で見る代わりに、画面でまとめて確認できるのがポイントです。
ここで実験を1つ。PC-BのLANケーブルをわざと抜いて、画面のポート3の表示が変わるのを確認してください。確認したら挿し直し、元に戻ることも見届けます。
「ケーブルが抜けた」が画面で分かる — トラブルの日に、机の下にもぐる前に原因へたどり着ける道具です。
速度の読み方(豆知識): LANの速度は、機器どうしが「お互い出せる最高速度」を相談して自動で決めます(オートネゴシエーション)。古い機器やケーブルの傷みで、想定より遅い速度に落ちて「つながるのに遅い」となることがあります。速度の欄は、その発見器になります。
3-5 操作手順③ — 接続されている機器にラベルを付ける
Section titled “3-5 操作手順③ — 接続されている機器にラベルを付ける”3-3で表示した一覧には、つながっている機器がMACアドレスなどで並んでいます。このままでは「どれが誰か」が読み取れないので、機器に、役割が分かるラベルを付けます。設定係が LAN Monitor で行います。
ここで名前を付ける相手は、ポートではなく機器です。だから、ラベルを付けられるのは いま実際につながっている機器だけ で、空きポートには付けられません。
- メイン画面左のツリーで対象のスイッチ(SWX2110-5G)を選ぶと、右下の 「接続機器」ビュー(リスト)に、各ポートと、そこに接続中の機器の一覧が表示される
- ラベルを付けたい機器の行で、「機器ラベル」(または「コメント」)のセルを ダブルクリック する
- セルが編集できる状態になるので、役割を入力して Enter で確定する(機器ラベルは128文字まで)
この演習では、つながっている3台に次のように付けます。
| つながっている機器(接続ポート) | 機器ラベル(例) |
|---|---|
| ルーター(ポート1) | T{n}-RTX |
| PC-A(ポート2) | PC-A |
| PC-B(ポート3) | PC-B |
ポート4・5は空きなので、この一覧には現れません。
「名前を付けるだけ?」と思うかもしれません。でも、半年後にこの画面を開く人(未来のあなた)にとって、MACアドレスだけが並ぶ一覧と、「PC-B」と書かれた行がある一覧では、読み取れる速さがまるで違います。機器を見分けられるようにしておくのは、次にトラブル対応をする人への申し送りです。
なお、ラベルは機器に付くので、その機器を別のポートへ挿し替えると、表示も挿し替え先のポートの行へ移ります。「ポート3という場所の名札」ではない、という点だけ押さえておいてください。
※機器ラベルがどこに保存されるか(操作したPC側か、機器側か)は実機で確認中です。研修では、当日操作したPCの画面で確認してください。
3-6 操作手順④ — ポートを止める・戻す
Section titled “3-6 操作手順④ — ポートを止める・戻す”ポートは、設定で止める(無効にする) ことができます。実験してみましょう。
- 確認係がPC-Bで
ping 192.168.n0.1 -tを打ち続ける(-tは続けて打つオプション。止めるときは Ctrl+C) - 設定係が 「機器設定」→「ポートの設定」タブ でポート3を選び、「ポートの動作」を「使用しない」 にして確定する(=ポート3を無効化)
- PC-Bのpingが止まり、ポート3のリンクが落ちることを確認する
- 同じ画面で、ポート3の 「ポートの動作」を「使用する」に戻して 確定する。pingが再開することを確認する
ケーブルは挿さったままなのに、通信だけが止まる — 「物理的には正常、設定で止まっている」というトラブルの形を、自分の手で作って体験しました(第7章の総合演習で再会するかもしれません)。
実務では、使っていないポートを無効にしておく運用があります。空きポートに誰かが勝手に機器をつなぐ事故・不正を防ぐためです。
大事な注意: 止めるポートを間違えると、自分の管理の道が消えます。もしPC-Aがつながるポート2を止めたら、LAN Monitorからの操作もそこで届かなくなります。「自分が乗っている枝を切らない」— 遠隔管理の鉄則です。
3-7 ループ検出 — 「輪」を作るとどうなるか
Section titled “3-7 ループ検出 — 「輪」を作るとどうなるか”第1章からずっと「ケーブルで輪を作らない」と言い続けてきました(基礎編第3章のループ。全員宛ての騒ぎが回り続けてLANが麻痺します)。
SWXには、このループを見つける仕組み(ループ検出) があります。もし誰かがうっかり輪を作っても、スイッチが気づいて知らせてくれる保険です。
この実験は、講師のデモまたは講師の指示があったときだけ行います。 手順は「ポート4と5を短いケーブルでつなぐ → 検出の様子を観察 → すぐ抜く」です。勝手にやらないでください — 保険の動作を確かめる実験であって、保険があるから輪を作ってよいわけではありません。
3-8 正常時の結果
Section titled “3-8 正常時の結果”- LAN Monitorの構成表示と、紙の構成図(図2-1)が一致している
- ポート1〜3のリンク・速度・接続機器が読める(ケーブルを抜くと表示が変わる)
- つながっている3台(ルーター・PC-A・PC-B)に機器ラベルが付き、一覧で見分けられる
- ポート3の無効→有効で、PC-Bの通信が止まる→戻るを確認した
3-9 よくある設定ミス
Section titled “3-9 よくある設定ミス”| ミス | 症状 | 直し方 |
|---|---|---|
| 管理に使っているポート2を無効にした | LAN Monitorからの操作が届かなくなる | ケーブルを予備ポートに挿し替えて復旧(最悪は初期化) |
| ポートを無効にしたまま忘れた | 「ケーブルは正常なのにつながらない」が残る | 実験後は必ず有効に戻す(3-8のチェック) |
| 機器ラベルを取り違えて付けた | 次のトラブル対応で誤った機器を疑う | 構成図・接続ポートと突き合わせて修正 |
もう一歩深く — ループ対策の本格版
Section titled “もう一歩深く — ループ対策の本格版”今日のループ検出は「事故ったら知らせる」保険でしたが、大きなネットワークでは、わざと経路を二重化して(冗長化)、ループにならないよう自動制御する技術(STPなど)が使われます。この研修では名前の紹介まで。発展編の題材です。
もう一歩深く — ルーターとスイッチで「設定の入り口」が違うわけ
Section titled “もう一歩深く — ルーターとスイッチで「設定の入り口」が違うわけ”第2章で「機器によって設定の入り口が違う」と学びました。その裏には、設定を”どの層”でやるか という基本的な違いがあります。
- ルーター(RTX) … 自分の中にWebサーバーを持ち、IPアドレス(第3層=ネットワーク層の住所)を使ってブラウザーから管理します。管理そのものが IPの上 で動いています。
- SWX2110-5G … IPアドレスを持たなくても LAN Monitor から管理できました。親機(ルーター)と子機(スイッチ)が、IPより下の第2層(イーサネット)のやりとり で会話しているからです。ヤマハはこの仕組みを L2MS(Layer 2 Management Service) と呼びます。「管理を第2層でやる」ので、子機に第3層の住所(IP)を用意しなくても済みます。
「スイッチは第2層で働く機器だから住所が要らない」と考えたくなりますが、それは少し不正確です。フレームを転送する仕事にIPが要らないのは、たしかにすべてのL2スイッチに共通です。けれど “管理”に住所が要るかは別の話 で、同じL2スイッチでも、IPアドレスを持たせてブラウザーやコマンドで管理するタイプもあります(上位のスイッチに多い)。分かれ目は「機器が第2層か第3層か」ではなく、“管理をどの層でやるか” です。
- IPを持たず、第2層の仕組みで管理 … SWX2110-5G のようなスマートスイッチ
- IPを持って、第3層(Web・コマンド)で管理 … 上位のマネージドスイッチ
この「機器を、まずネットワーク上で見つけてから設定する」発想は、ヤマハだけのものではありません。他社のスイッチにも、専用ツールが 同じようにネットワーク上の機器を見つけて設定する ものがあります。メーカーが違っても、“入り口”の作り方の考え方は似ています。
最後に1つだけ正確に。IPが要らないのは 見られる側のスイッチ(子機) です。LAN Monitor を動かすPCそのものは、親機のルーター(IPを持つ)に届く必要があります。「経路にIPが1つも要らない」のではなく、「子機のスイッチにIPを振らなくてよい」が正しい言い方です。
※スイッチ側の管理IPの有無や他社ツールの検出方式は、機器やファームウェアによって異なることがあります。
基礎編の関連章
Section titled “基礎編の関連章”- 第3章 — スイッチの仕組み(宛先だけに届ける)。「他人の通信はふだん見えない」理由と、ループの怖さの原点
- 第8章 — 「まず目で見る」の確認手順。3-4のポート状態は、その画面版
問題1(理由の説明)
Section titled “問題1(理由の説明)”ルーターの設定はブラウザーの管理画面で行うのに、SWX2110-5Gの設定はLAN Monitorで行います。あなたの言葉で、後輩に「機器によって設定の入り口が違う」ことを説明してください(第2章 2-5の表を思い出しても構いません)。
問題2(状況判断)
Section titled “問題2(状況判断)”PC-AでWiresharkを動かしても、「PC-Bからルーターへのping」は見えません。その理由を、スイッチの動き(基礎編第3章)で説明してください。
問題3(実務の判断)
Section titled “問題3(実務の判断)”使っていないポート4・5を無効にする運用には、どんな利点がありますか。また、ポートを無効にするとき、絶対に間違えてはいけないのはどんなポートですか。
問題4(状況判断)
Section titled “問題4(状況判断)”「PC-Bだけ通信できない」という申告がありました。LAN Monitorの画面で最初に見るべき場所と、そこから分かることを2つ挙げてください。
問題1の解答を表示する
解答例: ルーターは自分の中に管理画面(小さなWebサーバー)を持っているので、ブラウザーで直接開ける。SWX2110-5Gはその窓口を持たない代わりに、PCに入れたLAN Monitorというアプリが窓口になる。機器ごとに「設定の入り口」が違うので、まず入り口を確かめるのが実務の第一歩。
「中に窓口がある機器」と「外のアプリを窓口にする機器」の対比が説明できていれば正解です。
問題2の解答を表示する
解答例: スイッチは宛先MACアドレスを見て、宛先の機器がつながっているポートだけにフレームを届ける。PC-Bとルーターの通信の宛先はPC-Aではないので、PC-Aのポートにはそもそも流れてこない。だからWiresharkにも現れない。
「見えないのはWiresharkの性能不足ではなく、スイッチが正しく仕事をしている証拠」と言えたら満点です。
問題3の解答を表示する
解答例: 利点は、空きポートに勝手に機器をつながれる事故・不正を防げること。絶対に間違えてはいけないのは、自分の管理用PC(LAN Monitorを動かしているPC)がつながっているポート。止めた瞬間、直す手段ごと失う。
「自分が乗っている枝を切らない」(3-6)が出てくれば合格です。
問題4の解答を表示する
解答例: 最初に見るのはPC-Bがつながるポート3の状態。分かることは、①リンクが落ちていれば第1層の問題(ケーブル抜け・断線・ポート無効)、②リンクが正常なら第1層はシロなので、住所や設定(第3層側)へ疑いを進められる。
画面を見るだけで「下の層の切り分け」(基礎編第8章)が1歩進む、という流れが書けていれば正解です。
- 第2章 ルーターの接続と基本設定 — LAN Monitorとの顔合わせと「設定の入り口」の話
- 第6章 VLANによるネットワーク分割【モジュールC】 — このスイッチを設定で「2つに分け」ます。今日の操作がそのまま土台になります
- 第8章 ポートミラーリングでパケットを覗く【モジュールD】 — 「他人の通信が見えない」を、スイッチの設定でくつがえします
- 第7章 総合演習と障害切り分け — 今日体験した「設定で止まっているポート」は、障害演習の常連です