Skip to content

第1章 ネットワークの全体像

この研修の最初の章です。細かい仕組みに入る前に、ネットワークの全体像と基本用語を押さえます。

  • ネットワークとは何か
  • LAN(Local Area Network)・WAN(Wide Area Network)・インターネットの区分
  • クライアントとサーバー
  • ネットワークを構成する機器
  • 構成図の読み方

章の最後に、研修で使う実機を手に取って観察します(1-7)。以降のすべての章の土台になる章です。

この章でできるようになること

Section titled “この章でできるようになること”
  • 身の回りのどこでネットワークが使われているか、例を挙げられる
  • LAN・WAN・インターネットの違いを説明できる
  • 「クライアント」と「サーバー」の関係を説明できる
  • PC・スイッチ・ルーター・アクセスポイント・サーバーの役割を一言で言える
  • 簡単なネットワーク構成図を読める
  • 実機のスイッチ・ルーターのポートとランプを確認できる

朝起きてから今までの行動を振り返ってみてください。

  • スマートフォンで天気を調べた
  • 動画やSNSを見た
  • 電車でICカードをタッチした
  • 会社や学校でメールを送った
  • 共有フォルダーのファイルを開いた
  • プリンターで印刷した

これらはすべてネットワークを使っています。ふだん意識されませんが、業務も生活もネットワークの上で動いており、「つながって当たり前」だからこそ、つながらなくなった瞬間に仕事が止まります。

この研修は、その「当たり前」の裏側の仕組みを理解するための研修です。

ネットワーク とは、コンピューター同士をつないで、データをやり取りできるようにしたものです。

ここでいう「データ」には、次のようなものがすべて含まれます。

  • メールの文章
  • 写真や動画
  • Webページ
  • 印刷の指示

文字も写真も動画も、コンピューターの中ではすべてデータであり、ネットワーク上を同じ仕組みで流れます。

「コンピューター」もPCだけではありません。スマートフォン、プリンター、テレビ、ICカードの改札機 — 中身にコンピューターを持つ機器は、みなネットワークに接続できます。

1-3 ネットワークの区分: LAN・WAN・インターネット

Section titled “1-3 ネットワークの区分: LAN・WAN・インターネット”

ネットワークは、範囲によって呼び分けられます。基本の区分は3つです。

LAN・WAN・インターネットの関係図。本社のLANと支店のLANがWANで結ばれ、それぞれインターネットにもつながっている。家庭のLANもインターネットにつながっている

図1-1 LAN・WAN・インターネットの関係

LAN は、1つのオフィスや建物の中など、狭い範囲のネットワークです。

会社のフロアでPCとプリンターがつながっている範囲、家の中でスマートフォンやゲーム機がWi-Fiでつながっている範囲がLANです。自分たちで機器を用意し、自分たちで管理する範囲 と考えると区別しやすくなります。

WAN — 拠点間を結ぶネットワーク

Section titled “WAN — 拠点間を結ぶネットワーク”

WAN は、地理的に離れたLAN同士を結ぶネットワークです。

東京の本社と大阪の支店を例にすると、それぞれの建物の中はLANですが、拠点の間に自分でケーブルを敷設することはできません。通信事業者の回線を借りて結びます。この「拠点と拠点を結ぶ部分」がWANです。

インターネット — 世界中のネットワークの相互接続

Section titled “インターネット — 世界中のネットワークの相互接続”

インターネット は、世界中のネットワークが相互に接続してできた、巨大なネットワークです。

「インターネット本体」という1台の機器はどこにも存在しません。無数のネットワークがつながり合った全体を指す呼び名です。

名前範囲
LAN建物・フロアの中会社のオフィス、家の中
WAN離れた拠点の間本社と支店の間
インターネット世界中Webサイトの閲覧、動画の視聴

この研修の実機演習編では、実機を使って「本社と支店」のネットワークを構築します。この3つの用語は全編を通して使います。

ネットワーク上のコンピューターは、通信の場面ごとに2つの役割に分かれます。

  • クライアント — サービスを 要求する
  • サーバー — サービスを 提供する

スマートフォンで動画を見る場面では、次のやり取りが起きています。

  1. スマートフォンが「この動画のデータをください」と要求する(クライアント)
  2. 動画サービス側のコンピューターが、動画のデータを返す(サーバー)

会社の中でも同じ関係が成り立っています。

  • 共有フォルダーのファイルを開く → ファイルサーバーに要求している
  • 社内システムの画面を開く → 社内のWebサーバーに要求している

サーバーは特別な機械ではない

サーバーの実体は「要求に応えるプログラムが動いている、性能のよいコンピューター」です。役割の名前であって、機械の種類の名前ではありません。中身の仕組みは一般のPCと同じです。

この研修の実機演習編では、NAS(ナス)という小型のファイルサーバーが登場します。

1-5 ネットワークを構成する機器

Section titled “1-5 ネットワークを構成する機器”

ネットワークは、決まった種類の機器の組み合わせで構成されます。まず5つ押さえます。

機器役割を一言で
PC(スマートフォン)ネットワークを利用する端末。クライアントになることが多い
スイッチ複数の機器のケーブルを集約し、データを宛先の機器だけに転送する
ルーターネットワークとネットワークをつなぐ(LANの外との出入口)
アクセスポイントケーブルの代わりに無線(電波)で機器をLANに接続する
サーバーサービスを提供する側のコンピューター

オフィスには多数のPCやプリンターがあります。これらのケーブルを1か所に集約する機器がスイッチです。外観は、ケーブルの差し込み口(ポート)が並んだ箱です。単に電気信号を分配するのではなく、「データを正しい宛先にだけ転送する」処理を行っています。仕組みは第3章で学びます。

LANの中だけの通信ならスイッチで足ります。「LANの外」と通信するときの出入口になるのがルーターです。会社のLANからインターネットへ出るとき、本社のLANから支店のLANへつなぐとき、必ずルーターを通ります。仕組みは第5章で学びます。

ケーブルを挿せない機器(スマートフォンなど)や、配線できない場所のために、無線でLANに接続する入り口を作る機器です。「Wi-Fi」の電波を出しているのがアクセスポイントです(第9章)。

家庭の「Wi-Fiルーター」の正体

家庭用のWi-Fiルーターは、1台の中に「ルーター」「スイッチ」「アクセスポイント」の3役が入った複合機です。会社のネットワークでは、この3役を別々の機器に分けて、台数や設置場所を個別に設計します。機器を役割で見る習慣をつけると、構成の読み解きが速くなります。

小さなオフィスのLANの構成図。上にインターネットの雲があり、その下のルーターが会社のLANへの出入口になっている。ルーターの内側にスイッチがあり、スイッチからPC2台・プリンター・サーバー・アクセスポイントが有線でつながる。アクセスポイントにはスマートフォンが無線(破線)でつながっている

図1-2 小さなオフィスのLANの例(実線=有線、破線=無線)

1-6 ネットワーク構成図の読み方

Section titled “1-6 ネットワーク構成図の読み方”

ネットワークの仕事では、構成図 が必ず登場します。どの機器がどうつながっているかを表した図です。

読み方の基本は次のとおりです。

  • 機器は、箱やアイコンで描く(名前を添える)
  • 機器間のつながりは、線で描く(実線=ケーブル、破線や電波マーク=無線が一般的)
  • 上や外側に「外の世界」(インターネットなど)、下や内側に自分たちのLANを描くことが多い

図1-2を上から順に確認してください。

  1. いちばん上がインターネット(外の世界)
  2. その入り口にルーター
  3. ルーターの内側にスイッチ
  4. スイッチから各機器(PC、プリンター、サーバー、アクセスポイント)へ

この「外 → ルーター → スイッチ → 機器」という並びは、規模を問わずオフィスネットワークの基本形です。この形を知っていれば、初めて見る構成図でも「どこが外で、どこが中か」の見当がつきます。

迷ったら構成図に戻る

この研修では多くの構成図が登場します。説明が難しく感じられたら、構成図に戻って「いま、どの機器と、どの機器の間の話か」を指で確認してください。以降の章でも、この確認方法は常に有効です。

1-7 実機観察 — 機器の実物を確認する

Section titled “1-7 実機観察 — 機器の実物を確認する”

ここまでに登場した機器のうち、スイッチとルーターの実物を観察します。研修で実際に使う機材です(この章では通電せず、外観の確認だけを行います)。

観察する機材

機材研修での役割
SWX2110-5G(スイッチ)第3章からの演習と、実機演習編で使用
RTX1200(ルーター)第5章からの演習と、実機演習編で使用

観察のポイント

  1. ポート: スイッチのポートの数を数えてください(SWX2110-5Gは5ポートです)。ルーターの背面には、8ポートの集まり(LAN1)と、独立したポート(LAN2・LAN3)があります。「WAN」と書かれたポートは ありません — どのポートを外側(WAN側)に使うかは、設定で決めます(第5章・実機演習編)
  2. ランプ: ポートの近くにある小さなランプ(リンクランプ)の位置を確認してください。通電して機器がつながると点灯し、「第1層がつながった」ことを示します(第2章・第3章で使います)
  3. ラベル: 機材に貼られた管理名(T1-SW など)を確認してください。実務でも、機器に管理名を付けて構成図と対応させるのが基本です
  4. 構成図との対応: 図1-2の「スイッチ」「ルーター」が、いま手元にある実物です。箱のアイコン1つが、この実物1台に対応します

スイッチとルーターは、外観だけでは区別がつきにくいことがあります。ポート構成・ラベル・型番で見分けます。「役割が違う別の機器」であることは、第3章と第5章でそれぞれの仕組みとして学びます。

  • 最初に構成図を見る(なければ描く) — ネットワークのトラブル対応は、全体像の把握から始まります。構成図が1枚あるだけで、確認する場所を順番に絞れます。
  • 「どこまでが自分たちの管理範囲か」を意識する — LANの中は自分たちで対処できますが、WANやインターネットは通信事業者の領域です。切り分けの第一歩は「自分たちの中か、外か」です。
  • 機器を役割で見る — 「あの黒い箱」ではなく「あれはスイッチ、あれはルーター」と役割で認識できると、障害時に疑う場所が見えてきます。

初めての方は読み飛ばして構いません。興味のある方向けの補足です。

インターネットは誰が運営しているのか

Section titled “インターネットは誰が運営しているのか”

インターネット全体を管理する会社や政府は存在しません。世界中の ISP(Internet Service Provider。通信サービスを提供する事業者)が、お互いのネットワークを相互接続することで成り立っています。家や会社からインターネットへ出るときは、必ずどこかのISPと契約して、その接続点を借りています(第7章)。

どちらも「遠くとつながる」点は同じですが、WANは「自分たちの拠点だけを結ぶ、閉じた回線」、インターネットは「誰でも使う、公開されたネットワーク」です。拠点間を結ぶ方法には、専用の回線を借りる方式のほかに、インターネット上に暗号化された通信路を作る VPN という方式もあります。VPNを実機で構築してみたい方は、実機演習編で扱います。

誤解実際
Wi-Fi = インターネットWi-Fiは「ケーブルの代わりの無線の区間」だけを指します。Wi-Fiにつながっていても、その先(ルーターより外)が切れていればインターネットは使えません。
インターネットという1台の大きなコンピューターがあるインターネットは無数のネットワークの相互接続で、本体という機械はありません。
サーバーは特別な機械役割の名前です。「要求に応える側」ならサーバーです。中身は一般のコンピューターと同じ仕組みです。
ネットワークの機器はどれも同じような箱スイッチ・ルーター・アクセスポイントは役割が明確に異なります。役割の違いは、この後の章で1つずつ学びます。
  • ネットワーク は、コンピューター同士をつないでデータをやり取りする仕組み
  • 範囲で区分する: LAN(建物の中)、WAN(拠点の間)、インターネット(世界中の相互接続)
  • コンピューターの役割は2つ: 要求する クライアント と、提供する サーバー
  • 基本の機器は5つ: PC・スイッチ・ルーター・アクセスポイント・サーバー
  • 構成図 の基本形は「外 → ルーター → スイッチ → 機器」
  • 迷ったら構成図に戻って、どの機器の間の話かを確認する

問題を解いてから、「解答と解説」で答え合わせをしてください。

次の3つの説明に合う言葉を、LAN・WAN・インターネットから選んでください。

  1. 世界中のネットワークがつながり合ってできた巨大なネットワーク
  2. 1つの建物やフロアの中の、狭い範囲のネットワーク
  3. 東京の本社と大阪の支店のように、離れた拠点の間を結ぶネットワーク

スマートフォンで動画を見ているとき、「クライアント」はどちらですか。理由も一言で答えてください。

同僚から「スマホの画面にWi-Fiのマークは付いているのに、Webページが見られない」と相談されました。「Wi-Fiにつながっている」ことと「インターネットが使える」ことが別である理由を、この章の言葉で説明してください。

自分の家(または職場の自分の区画)のネットワーク構成図を、紙に描いてください。

  • 機器を箱で描き、名前を書く(例: Wi-Fiルーター、PC、スマートフォン、プリンター)
  • ケーブルは実線、無線は破線でつなぐ
  • インターネットにつながっている場合は、いちばん上に「インターネット」と描く
問題1の解答を表示する

1 = インターネット、2 = LAN、3 = WAN

範囲の狭い順に並べると「LAN → WAN → インターネット」です。「建物の中」「拠点の間」「世界中」という範囲の区分とセットで覚えてください。

問題2の解答を表示する

クライアントはスマートフォン。

理由: 「この動画のデータをください」と要求する側だからです。動画のデータを返す動画サービス側のコンピューターがサーバーです。

問題3の解答を表示する

解答例: Wi-Fiは「アクセスポイントまでを無線でつなぐ区間」のことで、インターネットへの経路全体のことではないから。Wi-Fiのマークは「アクセスポイントまではつながっている」ことしか示しておらず、その先のルーターやインターネット側に問題があれば、Webページは見られない。

「Wi-Fiマークが付いている=無線の区間はつながっている」「その先は別の話」という切り分けができれば正解です。この「どこまでつながっているかを順に確かめる」考え方は、第8章の障害切り分けにつながります。

問題4の解答を表示する

決まった正解はありません。次の点が描けていれば十分です。

  • 機器が箱と名前で描かれている
  • つながりが線で描かれている(有線と無線の区別があればなお良い)
  • インターネットが外側(上)に描かれている

家庭の場合、多くは「インターネット → Wi-Fiルーター → 各機器」という形になります。Wi-Fiルーターが「ルーター・スイッチ・アクセスポイントの3役」の複合機であることを思い出してください。

  • 第2章 通信の仕組みとOSI参照モデル — データが相手に届くまでの「決まりごと」を学びます
  • 第3章 LAN・スイッチ・MACアドレス — スイッチの仕組みを学び、1-7で観察したスイッチで実際にLANを作ります
  • 第5章 ルーターとネットワーク間通信 — ルーターの仕事を学び、1-7で観察したルーターを演習に組み込みます
  • 実機演習編 第1章(使用機器と演習ネットワーク) — この章で観察した機器で、本社と支店のネットワークを構築します