第6章 AIに調べさせ、根拠を確かめさせる高度な調査技術
この章で身につけるのは「検索」より後の技術
Section titled “この章で身につけるのは「検索」より後の技術”AIへ疾患名を入力すれば、概要はすぐに表示されます。しかし、大学課題で必要なのは、もっともらしい説明を得ることだけではありません。
この章では、AIへ次の仕事を分けて任せます。
- 課題から調べる問いを抽出する
- 調査範囲と情報源を決める
- 候補資料を集める
- 採用する元資料を保存する
- 主張、数値、引用を元資料と照合する
- 相違と未確認事項を残す
- 確認済みの材料をWorkやスライド作成へ渡す
医学系の題材を使いますが、中心は医学知識そのものではありません。AIに何を調べさせ、どのファイルを残し、どの別タスクで確かめるかを学びます。
この章では機能比較を繰り返さない
Section titled “この章では機能比較を繰り返さない”Chat、ウェブ検索、Deep Research、Work、Codexの基本的な役割は、講座トップから第3章で扱いました。この章では同じ機能表をもう一度覚えず、調査結果を使える材料へ変えるテクニックに集中します。
一つの長い依頼へ、検索、要約、制作、検証を混ぜると、どこで情報が加わり、何が確認済みなのか分かりにくくなります。調査したAIにそのまま「正しいですか」と聞くだけではなく、資料と判定基準を限定した検証工程を作ります。
医学調査で現れやすいハルシネーション
Section titled “医学調査で現れやすいハルシネーション”第1章で扱ったハルシネーションは、医学系課題では次の形で現れます。
| AIが示した内容 | 外部で確認する場所 |
|---|---|
| 論文名、著者、雑誌名 | PubMed、雑誌公式ページ、論文PDF |
| DOI、PMID、URL | DOIの登録先、PubMed、公開元サイト |
| ガイドライン名、発行年、推奨 | 学会・公的機関の公式ページと原文 |
| 数値、単位、対象者数、期間 | 論文本文、表、図、補足資料 |
| 「効果がある」「原因である」などの結論 | 原文の結果、限界、対象集団、研究デザイン |
注意するのは、完全に存在しない資料だけではありません。実在する論文名へ別の内容を結び付ける、数値だけを取り違える、原文より強い結論へ変えることもあります。
確認は三段階に分けます。
- 実在確認:資料、著者、識別情報が本当に存在するか
- 原文確認:数値、引用、結論が元資料に書かれているか
- 対応確認:その根拠が今回の対象者、問い、文章を実際に支えるか
AIへ確認候補を整理させることはできますが、AIの「確認できました」という文章だけを確認済みの根拠にはしません。
現在の作業が曖昧なら、AI自身に切り分けさせられます。
この依頼には、調査、資料選択、文章作成、根拠確認が混ざっています。
まだ実行せず、作業を分けてください。各工程について、使う機能、入力資料、受け取る中間成果物、人が確認する地点を示してください。1 課題を「調べる問い」へ分解する
Section titled “1 課題を「調べる問い」へ分解する”Deep Researchを開く前に、通常Chatへ課題要項を渡して調査項目を抽出させます。この段階では答えを書かせません。
添付した課題要項を読み、調査を始める前に次を整理してください。
- 提出物と提出形式- 課題の中心となる問い- 調べる必要がある小さな問い- 指定された資料と使用禁止の資料- 必要な数値、図表、引用- 本人が判断しなければならない点- 不足している条件
医学的な説明やレポート本文は、まだ作らないでください。たとえば「疾患について患者へ説明する」という課題でも、疾患概要、検査、治療、生活上の注意、受診時の質問など、調査対象は複数あります。何を扱うかは課題要項と授業資料から決めます。
調査範囲を固定するメモ
Section titled “調査範囲を固定するメモ”結果をresearch-brief.mdとして残します。
課題の目的:対象読者:調べる問い:対象集団:対象期間:優先する情報源:必要な成果物:扱わない範囲:不足している条件:このファイルが、Deep Research、Work、Codexへ共通して渡す調査の入口になります。
2 広い候補調査と、指定資料の読解を分ける
Section titled “2 広い候補調査と、指定資料の読解を分ける”機能の選び方は第1章と第2章を参照します。ここで重要なのは、広いWeb調査と、採用したPDFだけを読む作業を同じ依頼にしないことです。
- 候補資料を広く探す段階では、Deep Researchまたはウェブ検索を使う
- 採用した論文PDFを読む段階では、Work、Codex、PDF用Skillへ資料を限定して渡す
- 根拠表やWord文書として残す段階では、WorkまたはCodexを使う
- 同じ照合順序を繰り返す段階では、自作Skillを使う
どこから分ければよいか迷った場合は、次のように尋ねます。
いま手元にあるのは、Deep Researchの報告、候補URL、論文PDF3本です。レポート本文を作る前に、どの資料を何の目的で確認し、どんな中間ファイルを残すべきか提案してください。3 Deep Researchの調査計画を修正する
Section titled “3 Deep Researchの調査計画を修正する”Deep Researchへ依頼した後、すぐに開始せず、提示された調査計画を確認します。
依頼へ入れる七つの条件
Section titled “依頼へ入れる七つの条件”- 目的:何の成果物を作るための調査か
- 対象:年齢、集団、条件、除外範囲
- 問い:何を比較・確認するか
- 情報源:公的機関、専門学会、レビュー、原著論文など
- 期間と言語:発行年、日本語・英語の範囲
- 必要な識別情報:DOI、PMID、URL、更新日
- 出力:候補資料、比較表、不一致、未確認事項
架空の大学課題に使う資料を調査してください。
目的:疾患説明レポートと短い発表資料の材料を集める対象:課題要項に記載された成人患者問い:research-brief.mdに記載した項目優先する情報源:授業指定資料、日本の公的機関・専門学会、査読済み論文期間と言語:現在有効な情報を優先し、日本語と英語を対象にする
出力:- 調査計画- 情報源候補一覧- 各資料で確認できる内容- 資料間で一致しない点- 追加確認が必要な点
最初に調査計画を提示し、開始前に確認を求めてください。計画で見る場所
Section titled “計画で見る場所”- 課題と無関係な領域まで広がっていないか
- 患者向け情報だけ、または専門家向け情報だけに偏っていないか
- 一次資料や公式資料へ到達する計画になっているか
- 新しさだけでなく、授業指定資料との関係も扱っているか
- 成果物の執筆まで勝手に含めていないか
不足していれば、開始前に「この問いを追加する」「この情報源を優先する」「レポート本文は作らない」と修正します。
4 候補資料を選別し、元資料を保存する
Section titled “4 候補資料を選別し、元資料を保存する”Deep Researchの報告は中間成果物です。報告文だけをWorkへ渡さず、採用する元資料を開いて保存します。
| 候補資料 | 種類 | 課題との関係 | 原文を開けるか | 採否 | 理由 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資料名 | 公的資料/ガイドライン/レビュー/原著論文 | どの問いに使うか | PDF/HTML/未取得 | 採用/保留/不採用 | 更新年、対象、内容 |
AIへ候補を分類させても、採否は人が決めます。採用した資料だけを01_sources/へ保存し、候補だけの資料と混ぜません。
第3章で作り、第4章で本人メモを加えたacademic-assignment/を継続して使います。この章のために別の課題フォルダを作り直しません。
academic-assignment/├─ AGENTS.md├─ 00_requirements/│ ├─ assignment.pdf│ └─ research-brief.md├─ 01_sources/│ ├─ source-register.md│ ├─ guideline.pdf│ └─ paper.pdf├─ 02_analysis/│ ├─ my-ideas.md│ ├─ paper-profile.md│ └─ evidence-table.md├─ 03_report/├─ 04_slides/└─ 05_verification/source-register.mdには、ファイル名、正式タイトル、公開主体または雑誌名、年、DOI・PMID・URL、採用理由を記録します。
5 論文PDFをAIへ読ませるときの指定
Section titled “5 論文PDFをAIへ読ませるときの指定”「この論文を要約して」だけでは、課題に不要な情報まで均等にまとめられます。読む目的と残すファイルを指定します。
01_sources/paper.pdfを読み、レポート作成前の分析だけを行ってください。
02_analysis/paper-profile.md:- タイトル、著者、雑誌名、年、DOIまたはPMID- 研究目的- 研究デザイン- 対象と除外条件- 方法- 主要結果- 著者が示した限界
02_analysis/evidence-table.md:- 課題で使用候補となる主張- 対応するページ、節、表、図- 数値、単位、分母、比較対象- 解釈上の注意
論文中で確認できない内容は追加しないでください。レポート本文はまだ作成しないでください。表と図を別に確認する
Section titled “表と図を別に確認する”AIが本文だけを読み、表や図の条件を落とすことがあります。主要な数値は次の項目へ分解させます。
- 数値
- 単位
- 分母
- 対象集団
- 比較対象
- 測定時点
- 記載位置
画像として埋め込まれた表を読めない場合は、該当ページの画像または表データを別に渡します。
6 主張と出典を一対一で追える根拠表を作る
Section titled “6 主張と出典を一対一で追える根拠表を作る”長い要約ではなく、原稿で使う主張を単位にした根拠表を作らせます。
| ID | 原稿で使う主張 | 元資料 | 根拠位置 | 数値・条件 | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|
| C-01 | 原稿候補の一文 | 論文・資料名 | ページ、節、表、図 | 対象、単位、期間 | 確認済/相違/未確認 |
根拠位置はPDFのページ番号だけでなく、Results、Table 2、Figure 1など、人があとで探せる情報を残します。一つの主張に複数資料を混ぜず、資料ごとに行を分けます。
7 AIへ確かめさせる七つのテクニック
Section titled “7 AIへ確かめさせる七つのテクニック”1 作成したタスクとは別のタスクで確認する
Section titled “1 作成したタスクとは別のタスクで確認する”同じ会話の続きで「正しいですか」と尋ねるのではなく、新しいWorkまたはCodexタスクへ、原稿、元資料、判定基準だけを渡します。
2 文章を改善させず、照合だけさせる
Section titled “2 文章を改善させず、照合だけさせる”このタスクでは文章を改善しないでください。03_report/report-draft.mdの主張、数値、引用、参考文献を、01_sources内の元資料と照合してください。
各項目を次のいずれかに分類してください。- 元資料で確認できた- 表現が元資料より強い- 数値、単位、対象が一致しない- 元資料に見つからない- 判断に追加資料が必要
結果を05_verification/verification-report.mdへ記録し、原稿は変更しないでください。3 別の結論を探させる
Section titled “3 別の結論を探させる”「正しさの確認」だけでなく、対象集団の違い、研究の限界、資料間の不一致、結論を弱める条件を探させます。
4 書誌情報を独立して照合する
Section titled “4 書誌情報を独立して照合する”タイトル、著者、雑誌名、年、DOIまたはPMIDを組として確認します。識別情報が一致しない参考文献は完成扱いにしません。
5 数値だけを一覧にする
Section titled “5 数値だけを一覧にする”割合、対象者数、期間、効果量などを抜き出し、本文、表、図と照合します。単位、分母、比較対象も並べます。
6 主張の強さを比べる
Section titled “6 主張の強さを比べる”原論文が「関連した」と述べているのに、原稿が「原因である」と書いていないかなど、元資料より強い表現を探させます。
7 未確認事項を消させない
Section titled “7 未確認事項を消させない”見つからない情報を補完させず、未確認一覧として残します。人が確認する順番として利用します。
8 第3章で作ったSkillを使う
Section titled “8 第3章で作ったSkillを使う”第3章で作成したmedical-source-checkを、検証専用タスクで明示的に選びます。
$medical-source-check
入力:- 00_requirements/assignment.pdf- 01_sources/paper.pdf- 03_report/report-draft.md
今回は原稿を修正せず、照合結果だけを05_verificationへ保存してください。Skillを使う利点は、医学知識が自動的に正しくなることではありません。別の課題でも次が抜けにくくなることです。
- 書誌情報の確認
- 根拠位置の記録
- 数値と対象条件の照合
- 相違と未確認事項の分離
- 原稿を変更せず検証報告を先に作ること
実行後は、Skillを使わずに依頼した結果と比較します。重要な項目が抜ける、不要な場面でSkillが動く、資料不足を推測で埋める場合は、第3章の方法でdescriptionまたは手順を修正します。
Skillを作成・選択できない場合
Section titled “Skillを作成・選択できない場合”自作Skillが表示されない環境でも、検証工程は中止しません。Skillは新しい検証能力を追加するものではなく、決めた照合順序を呼び出しやすくする保存形式です。第7節の確認項目を、保存した依頼文とチェックリストとして新しいWorkまたはCodexタスクへ渡します。
この環境では自作Skillを利用できないため、保存済みの確認手順を実行してください。
入力:- 00_requirements/assignment.pdf- 01_sources/paper.pdf- 03_report/report-draft.md
確認すること:1. 書誌情報を原文と照合する2. 原稿の主張と根拠位置を対応させる3. 数値、単位、対象、比較条件を照合する4. 相違と未確認事項を分離する
原稿は変更せず、結果だけを05_verification/verification-report.mdへ保存してください。9 英語論文をレポートと発表へつなぐ
Section titled “9 英語論文をレポートと発表へつなぐ”医学総合英語の課題では、翻訳結果をそのままスライドにしません。一度作った確認済みの分析ファイルを、レポートと発表で共用します。
図では読みやすさを優先して成果物名を短くしています。実際のファイル名と役割は、次の表で確認します。
| 中間成果物 | 役割 | 次に渡す先 |
|---|---|---|
paper-profile.md | 論文の目的、方法、対象、結果、限界 | Work、発表担当者 |
evidence-table.md | 主張と根拠位置を対応させる | Work、検証タスク |
verification-report.md | 相違と未確認事項を示す | 本人、修正用Work |
report-draft.docx | レポート原案 | Word、検証タスク |
slides-outline.md | スライド構成と出典 | PowerPoint、Canva |
レポートとスライドを別々に要約させるのではなく、同じpaper-profile.mdとevidence-table.mdを使います。成果物間で数値や結論がずれた場合も照合しやすくなります。
10 うまくいかないときの切り分け
Section titled “10 うまくいかないときの切り分け”| 問題 | 原因として考えること | やり直し方 |
|---|---|---|
| 情報源が広がりすぎる | 調査する問いと対象が曖昧 | research-brief.mdを先に固定する |
| 出典はあるが原文を開けない | 調査報告だけを成果物にしている | URL、DOI、PMIDから元資料を取得する |
| 論文要約が一般論になる | 読む目的と出力ファイルが未指定 | 課題の問いと根拠位置を指定する |
| 表・図の数値がずれる | 単位、分母、対象、時点が落ちている | 数値だけを別表で照合する |
| 検証で原稿が勝手に変わる | 制作と検証を同じ依頼にしている | 別タスクで「変更しない」と指定する |
| Skillが関係ない依頼でも動く | descriptionが広すぎる | 使う条件と使わない条件を絞る |
| Skillを選んでも手順が抜ける | SKILL.mdの手順や出力が曖昧 | 順序、成果物名、停止条件を明記する |
ハンズオン 確認済み材料を作る
Section titled “ハンズオン 確認済み材料を作る”この章では、レポート本文の完成を目標にしません。次の中間成果物を作ります。
research-brief.md:課題から抽出した調査範囲source-register.md:候補資料と採否paper-profile.md:英語論文の構造と書誌情報evidence-table.md:主張と根拠位置の対応verification-report.md:相違と未確認事項
最後に、どの成果物をWorkへ渡し、どの資料は候補のまま除外するかを説明します。次章では、これらを使ってレポート、スライド、PDF提出までを一続きで実行します。
この章のチェック
Section titled “この章のチェック”- 課題要項から調べる問いを抽出できる
- ウェブ検索、Deep Research、Work、Codexを調査規模で選べる
- Deep Researchの調査計画を開始前に修正できる
- ハルシネーションを、実在確認、原文確認、対応確認の三段階で検証できる
- 調査報告と採用した元資料を区別できる
- 論文PDFから書誌情報と根拠位置を記録できる
- 原稿を作ったタスクとは別のタスクで検証できる
- 相違、過剰表現、未確認事項を消さずに残せる
- 第3章で作ったSkillを使い、結果を見て改善できる
- 確認済みの分析ファイルをレポートとスライドへ共用できる
製品情報確認日: 2026-08-11
公式資料: