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第4章 Deep Research で調べさせ、引用を確かめる

第3章の終わりに、宿題を1つ残しました。計画に「完成前に検証する」と書いてあっても、 実行されたかどうかは成果物でしか分かりません。

この章では、その成果物の側を見ます。Deep Research に調査を任せ、返ってきたものを確かめます。

Deep Research は、Web を多段階で調べ、多数の情報源を突き合わせて、引用付きのレポートに まとめる道具です。Work が目標から成果物までを作る道具なら、こちらは調べることに特化しています。

この章でできるようになること

Section titled “この章でできるようになること”
  • Deep Research を起動し、実行中に何が見えて何が見えないかを説明できる
  • 調べた件数と、引用に残った件数の差が何を意味するかを読める
  • 情報源を指定する必要があるかどうかを、出力を見てから判断できる
  • 工程ごとに読み手が違うことを踏まえて依頼を書ける
  • 返ってきた引用を、1件ずつ確かめる手順を持つ

起動と、画面で分からないこと

Section titled “起動と、画面で分からないこと”

入力欄の「+」から選びます。通常のチャットとは別の選択肢として並んでいます。

ここで1つ、先に知っておいてください。

選んだだけでは、残り回数はどこにも表示されません。

Deep Research は1回に時間がかかり、実行できる回数にも限りがあります。にもかかわらず、 あと何回使えるのかが画面から読めません。思いつきで何度も回せる道具ではないという前提で 使います。この章の演習を講師の実演にしているのも、この理由です。

ここからは、2026年8月9日に1回実行した記録です。モデルは GPT-5.6 Sol、推論レベルは中程度。 情報源の限定は指定していません。渡したのは次の文だけです。

2型糖尿病について、患者さんへの説明資料を作るための調査をしてください。
読み手は52歳の会社員で、健診でHbA1cが高いと指摘されましたが、
自覚症状がなく受診に気が進んでいません。医療の専門知識はありません。

実行を始めると、画面に調査計画が出ました。原文のままです。

2型糖尿病 患者向け説明資料調査
更新する
公的ガイドラインと日本の専門学会情報を収集する
HbA1cの意味と検査結果の解釈を分かりやすく調べる
症状がない場合のリスクと受診の必要性を整理する
生活改善と治療の選択肢を具体例でまとめる
患者向けの図表と短い説明文の草案を作成する

「まず計画を出してください」とは書いていません。それでも計画が出ました。ただし、承認は 待ちません。計画を表示したまま、そのまま調査へ進みます。

第3章の Work と比べてください。Work は指示しないと計画を出さず、止まりもしませんでした。 指示すれば、計画を出して止まりました。Deep Research は、指示しなくても計画を出しますが、 止まりません。

見えることと、止まることは別です。

計画の頭に「更新する」があります。走っている途中で計画に口を出せそうです。今回は最後まで 走らせたかったので触っていません。

「患者向けの図表と短い説明文の草案を作成する」とあります。調べるだけでなく、成果物の草案まで 計画に入っていました。

第1章の表では Deep Research を「引用付きの調査レポート」と書きました。実際には、もう少し先まで 踏み込んでくることがあります。

6分で、132件調べて27件が残った

Section titled “6分で、132件調べて27件が残った”

完了までは6分でした。待つ前提の作業ではありましたが、離席するほどではありません。

終わったあとの表示に、数字が2つ出ています。

件数
検索した132
引用に残った27

6分で132件を見て回っています。手作業との差は、この数字で足ります。

同時に、もう1つ見えるものがあります。105件は落ちています。何を採り、何を落としたのかは、 出力のどこにも書かれていません。

この章の後半は、ここから始まります。

出力そのものは、表とごく簡単な図を含む文章でした。受け取り方は4通りあります。

受け取り方どこで効くか
コピーその場で別のタスクへ貼る
Markdown にエクスポート手元にファイルとして残す。第5章で使います
Word にエクスポート手を入れて仕上げる
PDF にエクスポート提出形式。第7章で扱います

道具どうしの接続点になります。調べて終わりではなく、次の工程へ渡せる形で出てきます。

情報源を指定していないのに、公的資料しか並ばなかった

Section titled “情報源を指定していないのに、公的資料しか並ばなかった”

出力に付いてきた27件の引用のうち、16件の内訳です。

種別件数内容
学会7日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」の公開ページと各章のPDF
公的機関7厚生労働省 e-ヘルスネット、飲酒ガイドライン、糖尿病情報センター
英語の一次研究2UKPDS 35(BMJ 2000)、UKPDS 80(NEJM 2008)。いずれも PubMed
ブログ・まとめサイト・商業メディア・製薬会社0

情報源は一言も指定していません。それでもこの並びでした。

この内訳は医学の題材だから出てきた形です。分野が変われば、学会は業界団体や研究会になり、 公的機関は所管の省庁になり、一次研究は判例や統計や原典になります。自分の分野で 「これなら根拠として通る」と言えるものは何かに読み替えてください。以下の話は、その読み替えを したうえで成り立ちます。

ですからこの教材では、「必ず情報源を限定しましょう」とは書きません。少なくともこの1回は、 既定のまま学会と公的機関と査読論文だけが残りました。

限定は、そうならなかったときの手当てです。

第3章の「形式が決まっているなら直接書く」と同じ形になります。

  • 課題で使ってよい情報源が決まっている → 最初から書く
  • 決まっていない → まず既定で走らせ、出典一覧を見る。混ざっていたら、次から書く

書くときは、こう書きます。【 】 を自分の分野に置き換えてください。

使う情報源は次に限ってください。
- 【その分野の学会が出している診療ガイドライン、標準的な教科書】
- 【国や公的機関が公開している資料】
個人のブログ、まとめサイト、商業メディアは使わないでください。
出典は、発行元・版または更新年・本文が読めるURLまで書いてください。

この指定を入れた場合に出力がどう変わるかは、まだ実測していません。効きを確かめるなら、 指定なしと指定ありを1回ずつ走らせて、出典一覧を並べます。第3章で Work にやったのと同じ、 渡すものを変えて比べるやり方です。

英語の論文を、指示していないのに拾ってきた

Section titled “英語の論文を、指示していないのに拾ってきた”

出典一覧に、UKPDS 35(BMJ 2000)と UKPDS 80(NEJM 2008)が入っていました。どちらも PubMed です。 日本語で聞いて、日本語で返ってきた文章の根拠に、英語の原著が2件並んでいます。

「英語でも検索させる」ための書き方を練習する必要は、この回に関してはありませんでした。 代わりに効いてくるのは、返ってきた英語文献をどう扱うかです。

  • 開く。少なくとも abstract の結果の部分までは見る
  • 発表年を見る。古い研究が引かれていること自体は問題ではありません。大規模で長期の研究は 簡単には置き換わらないからです。ただし、その後の版で解釈が変わっていることはあります
  • 一次研究を単独で結論にしない。現行のガイドラインがその研究をどう扱っているかを見ます

専門的すぎる出力が返ってきた。これは失敗ではない

Section titled “専門的すぎる出力が返ってきた。これは失敗ではない”

出てきた資料は、かなり詳細で専門的なものでした。渡したプロンプトには「読み手は52歳の会社員、 医療の専門知識はありません」と書いてあります。効かなかったように見えます。

見直すと、そうではありませんでした。頼んだのは「説明資料を作るための調査」です。返ってきたのは 調査資料です。頼んだとおりのものが出ています。

ここに、工程を分けて任せるときの落とし穴があります。読み手が2つあります。

どちらの読み手か今回の例
最終成果物の読み手52歳・専門知識なしの患者さん
いま作らせているものの読み手説明資料を組み立てる自分。あるいは説明方針を確認する医療者

渡した「52歳・専門知識なし」は前者です。後者ではありません。混同すると、調査を頼んだのに 噛み砕いた文章が返り、根拠が薄くなります。

第3章で「用途を伝えると形が決まる」と書きました。その先にある話です。用途は工程ごとに違います。 調査の段階では、調査結果の読み手を書きます。

この調査結果は、【私が説明資料を組み立てるための材料】として使います。
専門用語はそのままで構いません。出典と数値を落とさないでください。
最終的な資料の読み手は【52歳・専門知識なし】ですが、
噛み砕くのは次の工程で行います。

版と確認日は、向こうが先に書いてくる

Section titled “版と確認日は、向こうが先に書いてくる”

出力の冒頭に、どの資料が現時点で最新の版なのか、次の改訂がいつ予定されているのか、患者向けの 資料はどれか、が確認日付きで書かれていました。

その数字と版名は、ここには載せません。裏を取っていないからです。AIの出力は、それ自体が 出典にはなりません。教材に載せるなら、発行元のページで確かめてからにします。

そのうえで、書きぶりとしては整っていました。出典と確認日を自分から併記してきます。

だからこの章の後半は、「確認させる」ではありません。 確認したと書いてあることを、人が確かめるという形になります。

前半の数字に戻ります。132件調べて、27件が残りました。105件が落ちた理由は書かれていません。 残った27件が正しいという保証も、どこにもありません。

今回、リンクを一部開いた範囲では、正しそうでした。全件は確かめていません。 ここから先は手順の話です。

何が起きているか
存在しないその文献自体が見つからない
支えていない文献は実在するが、本文が言っていることは書かれていない
孫引き引用元が原典ではなく、別の資料が引用した部分
版が古い改訂されており、現行版では記述が変わっている

Deep Research の出力にはリンクが付いています。ですから1つ目は、開けばその場で分かります。 残るのは下の3つです。開いてみたら中身が違う、原典ではない、版が違う。

  1. リンクが開くか。切れていないか、別のページへ飛ばされていないか
  2. 本文が言っていることが、そのページに書いてあるか。文献名が合っていても、中身が違うことがあります
  3. 発行元・版・更新年が、出力の記載と合っているか

すべての引用に同じ力をかけないでください。結論を支える中心的な主張から先に当たります。 背景説明の一文と、結論の根拠とでは、重みが違います。

今回の出力では、糖尿病情報センターの発行元が「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」となっていて、 URL も dmic.jihs.go.jp でした。

この教材の記録では、同じサイトの発行元を「国立国際医療研究センター」と書いています (確認日: 2026年8月3日)。

どちらが現在の名称か、ここには書きません。確かめていないからです。やることは1つで、 発行元のページを開いて、そこに書いてある名前を見ます。組織の改編で名前が変わることは 珍しくありません。

引用の確認とは、こういう作業です。判断ではなく、開いて見る。

すぐ「存在しない」と決めつけないでください。次を試します。

  • 表記ゆれ(略称、旧称、英語表記)
  • 改題や統合(ガイドラインは名称が変わります)
  • 発行元のサイト内検索

そのうえで見つからなければ、その引用は使いません。本文から外すか、たどり着けた資料に 差し替えます。「たぶん実在する」で残さないでください。

Deep Research は講師が1回実行し、その出力を全員で使います。各自が1回ずつ実行する形にしません。

理由は、この章の最初に書いたとおりです。残り回数が画面に表示されないため、上限に当たったことに 気づかないまま進む恐れがあります。加えて、ここで確かめたいのは調査の起動ではなく、 返ってきた引用の扱い方です。

Deep Research の出力に付いてきた引用を、1件ずつ実際に開いて確かめます。

調査と、引用付きレポートの作成。引用の確認そのものは担当させません。

  • Deep Research の出力(講師が実行したもの。出典一覧を含む)
  • 自分の課題の4点セット(第1章)。どの主張に根拠が要るかを見るために使います

引用確認の記録。1件ごとに次の3列を埋めます。

#引用リンクは開くか書いてあるか書誌情報は合うか
1
  • 出力の結論を支えている引用を5件以上選び、すべて開いた
  • 3列すべてに結果が入っている
  • 合わなかった引用について、扱いを決めた(外す・差し替える・条件付きで使う)
  • リンクが開いたことで満足していないか。開いた先に書いてあるかまで見たか
  • 出力が言い換えている箇所を、そのまま「書いてある」と判定していないか
  • 中心的な主張から先に確認したか。背景説明から始めて時間が尽きていないか

引用確認の記録と、確認済みの参考文献一覧。第5章でファイルとして残します。

この引用が主張を支えているかどうか、自分では判断できません。
主張: 【本文の記述】
引用: 【引用元の資料と、該当箇所】
判断するには、その資料のどこを見ればよいですか。

判断そのものを任せず、判断材料の探し方を聞きます。

  • 出来のよい出力ほど、確認を飛ばしたくなる。出来のよさと正しさは別のものです
  • 引用が27件あるのだから丁寧に調べたはずだ、と考える。105件が落ちた理由は書かれていません
  • リンクが開いたら確認済みにする。開くことと、書いてあることは別
  • 最初から情報源を限定しないと危ない、と思い込む。この1回は既定のまま公的資料が並びました
  • 最終成果物の読み手を、調査の依頼にそのまま書く。工程ごとに読み手は違います
  • すべての引用に同じ力をかけて、時間が尽きる

この章の本筋からは外れますが、知っておくと効くものです。

  • 実行中に計画へ介入する(第2回候補)。計画の頭に「更新する」があります。走り出したあとで 観点を足せそうです。今回は完走を優先して触っていません
  • 反対の結果や、条件の違う研究を探させる(第2回候補)。自分に都合のよい資料だけが 集まっていないかを点検する技術です
  • 引用監査を手順として残す。この章の3ステップは、題材が変わっても1文字も変わりません。 こういう手順こそ、書き留めて使い回す価値があります。第5章で扱います
  • 孫引きの見分け方。引用の引用をたどって原典に当たる方法です

製品の機能や提供範囲は変わります。この章は次の時点の記録に基づいています。

  • 情報確認日: 2026年8月9日
  • ここに載せた記録は、ある1つの環境で1回実行した結果です。モデルは GPT-5.6 Sol、 推論レベルは中程度、ブラウザーで実行しました。同じ結果になるとは限りません
  • 情報源を絞って実行した場合にどうなるかは、まだ実測していません
  • 引用の実在確認は、一部のリンクを開いた範囲までです。5件を最後まで突き合わせた記録は まだありません
  • 検索対象を画面の機能で限定できるかどうかは、確認できていません。この章では、 プロンプトに書く方法だけを扱っています
  • 実行できる回数の上限は、公開されている情報でも値が割れています。この教材では数値を書きません
  • 医学的な記述は、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」(2024年5月30日発行、第7版。 確認日: 2026年8月3日)で裏の取れる範囲にとどめています。AIの出力にあった版や刊行予定のうち、 裏を取れていないものは載せていません
  • 画面に依存する説明は最小限にしています。「+」からの起動だけは、これがないと始められないため 書きました
  • 「+」から起動する。残り回数は画面に出ない。何度も回せる道具ではない
  • 計画は見えるが、止まらない。見えることと止まることは別
  • 6分で132件調べ、27件が引用に残った。105件が落ちた理由は書かれていない
  • 情報源を指定しなくても、この1回は学会と公的機関と査読論文だけが並んだ。 限定は、そうならなかったときの手当て
  • 英語の一次研究は指示しなくても拾ってきた。問題は探し方ではなく、返ってきたものの扱い方
  • 工程ごとに読み手は違う。最終成果物の読み手と、いま作らせているものの読み手を分けて渡す
  • 版と確認日は向こうが書いてくる。人がやるのは、確認したと書いてあることを確かめること
  • 引用は、開く・書いてあるか・書誌が合うか。中心的な主張から先に
  • Deep Research の出力(Markdown で書き出したもの)
  • 引用確認の記録と、確認済みの参考文献一覧

次は Codex です。ここまでで、第3章の出力、第4章の調査結果と確認記録がたまりました。 会話の中に置いたままでは、次の課題で引き出せません。手元にファイルとして残す話をします。